怖い話「猿の手」怪奇小説の名作 奇才W.W.ジェイコブズが送る120年前からのメッセージ!

horror

ここはイギリスの片田舎

そこに住むホワイト老夫妻の家

暖炉の火に照らされた家の窓が

暗い石畳の街道に

薄明るく浮かび上がっていた

そんなホワイト老夫妻の家から

この物語は始まる・・

「猿の手」

暖炉にくべられた薪が時折パチパチと小さな音を鳴らしている

ここはリビング

ホワイト氏は困っていた それは息子の打つチェスの手があと一手でチェックメイトなのだ

だがこちらはもう打つ手が見当たらない

「お父さんもう降参したらどうですか」

息子のハーバードがニヤリと笑みを浮かべながら年老いた父に言う

「悔しが降参としよう あまりむきになるとこの後の食事がまずくなるよ」

「あら私の料理に美味しくないものなんてないわ」

夫人が不服そうにキッチンから声をかけた

ホワイト氏と息子が笑う

その時外の鉄門がガシャンと開く音がした

「あなたモリス曹長がいらっしゃったみたいよ」

ホワイト氏が玄関の戸を開けるとそこに旧友のモリス曹長が立っていた

二人は久しぶりの再会を喜びそしてモリス曹長を囲み食事が始まった

ダイニングテーブルの燭台の火がチロチロと揺れている

ワインのせいで少し顔を赤らめたホワイト氏がモリス曹長に尋ねる

「そういえば君がインドから持ち帰ったというあの猿の手はまだ持っているのかい?」

モリス曹長の厳めしい顔が一瞬強張る

「もし君がいいというならあの猿の手を譲ってくれないか」

モリス曹長は小さめのロックグラスに入ったウイスキーをグイっと飲み干し

「あれにはインドの行者による魔術がかけられており三つの願いを叶えてくれるが定められた運命を無理に変えようとすれば大きな災いが伴う」

モリス曹長は重い口ぶりで告げる

「私はあれが恐ろしく捨てよう捨てようとしたが未だに捨てられず 今も持ち歩いている」

「悪い事は言わない あれはおやめなさい」

だがホワイト氏は食い下がり

「捨てるぐらいなら譲ってほしい いいだろう」

それに息子のハーバードも加わりモリス曹長に頼みこむ 

「まあまあ二人共 あまり無理を言ってモリス曹長を困らせたらだめじゃない」

夫人が困った顔をする

やがてモリス曹長をは二人の熱意に押されとうとう根負けする

「わかりました でもくれぐれも気を付けていただきたい よろしいですか」

そう念押しするとポケットから白い布に包まれた物を渡した

夕食が落ち着き しばらく後モリス曹長は招かれたお礼を言ってホワイト宅を後にする

願い事

「お父さん猿の手に何をお願いしますか?」

「あれこれ考えていたんだがどうも私達は欲しいものは全て持っているらしい」

ハーバードは少し考え

「ではお父さんこの家のローンがあと200ポンド残っていましたよね それを頼んでみませんか ねぇ母さん」

「そうね」

「そうだなそれがいい」

ホワイト氏は布に包まれた猿の手を掲げ軽い気持ちで願いを口にした

するとその猿の手がブルっと震え 驚いたホワイト氏は「うわっ」と声を出し猿の手を床に落とす

三人はしばらく無言で床の猿の手を見つめるが

やがて

「なにも起きないみたいですね お父さん」

「まぁこんなもんだろう さぁそろそろ寝ようか」

「もし明日お金が入った袋が枕元にあったら僕が仕事から帰ってくるまで開けないで下さいよ

「そうするよ おやすみ」

ホワイト氏は笑って答えた

翌日

もうすぐ昼食の時間だという頃

ハーバードの務めている工場の工場長からすぐ来てほしいと電話が入った

ホワイト氏は支度をして夫人を残し工場へと向かう

そこで見たものは工場の機械に挟まれた息子の無残な姿であった

「現場にいた者によると息子さんはフラフラと機械の方へと向かい挟まれたようだったと 言っています 本当に残念です」

ホワイト氏は工場長の言葉も耳に入らず放心状態で家へ帰り夫人へ事故の事を告げる

泣き崩れる二人

そこへ工場長が家へやって来た

「これはハーバード君がいままで頑張っていてくれていた感謝の形としての慰労金です 200ポンドあります どうか受け取って下さい」

それを聞くと夫人の絶叫が部屋に響き

ホワイト氏は視界が薄れゆっくりと意識を失うのであった・・

ハーバードの亡骸は

家から数マイル離れた墓地に埋葬される

それからの夫婦の生活は会話も無く

無気力な日々が過ぎ

その一日一日はうんざりするほど長かった

ある夜半にホワイト氏がふと目を覚ますとベットに妻がいない

体を起こし周りを見てみると窓際に座っている夫人が目に入った

「どうしたんだい そこは寒いだろうこっちにおいで」

「あの子はもっと寒いんです あの子はぁ ぁぁぁ」

夫人は真っ赤になった目で叫ぶ

夫人のすすり泣く声だけが暗い部屋へ響いていた

嵐の夜

遠くで落雷の音が聞こえる 外は大雨

ずっと思いつめた顔の夫人だったがなぜかその夜は笑っていた だが目は遠くを見ている

「どうしたんだい」

ホワイト氏が尋ねる

「あなた! あの子生き返るわよ そうよ猿の手があるじゃない なんで早く気付かなかったのかしら あぁなんて幸せ」

夫人は夫の手を激しく揺さぶり歓喜している 今にも踊りだしそうに

「モリス曹長にも言われただろう 運命を変えてはならないと」

自分も息子に生き返って欲しい気持ちは狂いそうなほどある だが自分の中で駄目だと声がする

「なにを言っているの!あなたはあの子が死んだままでいいの それに一つ目の願いでもう運命は変わっているのよ」

夫人は目を吊り上げ狂人の様に夫にせまる

ホワイト氏は夫人の鬼気迫る勢いともう悲しんでいる夫人を見たくないとの思いで夫人の願いを了承した そして猿の手を掲げ願いを唱える

外は大雨 時折光る空

だんだん雷鳴が近づいて来ている

夫人は不安げに部屋を行ったり来たりし

ホワイト氏は椅子に座り息を殺す

雨音を聞きながら数時間が過ぎた・・

ホワイト氏がそんな願いはいくらなんでも無理なんじゃないかと思い始めた時

ードンドンドンドンー

激しい雨音に混ざって家の扉を叩く音がする

夫人が飛び上がって叫ぶ

「あなた あの子が帰ってきたわ! あの子が」

「そうよ!墓地が離れていたから時間がかかったのよー あぁー」

それを聞いてホワイト氏はゾッとした

機械に挟まれて人の原型を留めていなかった息子の姿を思い出したからだ

そしてそれが墓地から歩いて来たのを想像して

扉を叩く音がどんどん大きくなる

雷鳴が轟く

夫人は狂喜し玄関へと走った

街道に叩きつける雨音をもかき消すように 

外の何者かはもはや狂った様に扉を乱打している 

夫人が扉のチェーンをガチャガチャと激しく外す

扉はチェーンとは別に上と下とにかんぬきがかけられている

「あなたー椅子を持って来て! 私だと上のかんぬきに届かないの 早く!」

扉が壊れんばかりの叩く音

「ハーバード!今開けるからね」

「あなたー!早く椅子をもってきてちょうだい」

神に祈る様な仕草をした後

ホワイト氏は老いた足で走った だがそれは椅子を持っていくのでは無く

猿の手をしまってある暖炉横の戸棚へ

そして猿の手を取り出し頭上へと掲げる

猿の手がビクッと震えた・・

あれほど激しかった雨音が止んでいる

扉を叩く音もしない

時間が止まっているかの様な静けさだ

ホワイト氏は玄関へ行きかんぬきを外し

そっと扉を開け

ふらつく足取りで外へ出る

そこには人の気配も無く辺りは静寂に包まれている

チロチロと灯る街灯が

ただただ

雨に濡れた石畳を

照らしているだけであった。

W.W.ジェイコブズ

1900年代英国にて活躍した小説家
短編怪奇小説「猿の手」や「徴税所」などが有名
またこの短編怪奇小説が日本のホラーアンソロジーの原点となる

あとがき

私が中学生の時たまたま読んだ日本のホラー小説の中の一遍にこの「猿の手」があり

読み終えたあとジワジワと怖さが込み上げてきたのを今でも記憶しております

世界中には(三つの願い)をテーマにした民話が多い様に

遥か昔より(三つ願う)という事が人の根低にはあるのではないか(生まれる・生きる・そして死ぬ)の様に・・

些細な願い事から始まる一家の不幸の連鎖は

欲の無い老夫婦にとってはいささか理不尽にも感じますが

災難というのはいつも 足音もたてず不意にやって来るものなのでしょう

また私が考えるにこの作品のテーマの一部が

「男」と「女」の性の違いを表していると考える

男性は論理とルールに重きを置き

女性は感情に基ずいて行動する

我が子がどんな姿になろうと会いたい気持ちが何よりも優先する夫人と

亡くなったものはやはり土に返さなければならないと決断する夫

この両者の違いがこの作品の男女においての不変のテーマである様に思えます。

それではまたのご機会に。

本作品は原本翻訳より抜粋しアレンジしておりますが本筋は原作に沿ったものであります

お付き合いいただきありがとうございました

~ししまいmk~

\ 信じるか信じないかはアナタ次第 /

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ししまいmk

     関西在住
  大人男子ホテル勤務25年
   →Taxiドライバー★
  妻と娘4人の6人家族
  ホテルという業種を離れ
    家族の大切さ
   そして愛おしさを
     あらためて
   感じる日々である
    ではごゆるりと
  (一応ワインソムリエ)

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