お願いします
桜の蕾が少し膨らんできた
小春日和
とある薬局にお客様をお迎え
到着すると薬局の前に杖をついたお婆ちゃん
「長井様ですか?」
「はいはい長井ですー」
「早かったわえね よろしく」
「よろしくお願いします」
「どちらまで行かれます?」
「味噌市の揚げ町なの」
味噌市はここから17キロほど離れた
のどかな中規模都市だ
混み具合から約40分程はかかるだろうか
「わかりました それでは行きますね」
時計に目をやると 10:30分
ー 賃走 ー
薬がてんこ盛りに入った袋を抱え
長井様がしゃべりだす
「帯状疱疹で二カ月に一回ここの病院に来るんだけども、あっ 黒々医大の先生からここ紹介されてそれでここのね 先生が良いのよここ あと手もあまり動かなくて形成外科でリハビリも一緒にうけてね、まー元々ここは義理の兄からも進められていたんだけど、あっ その義理の兄って住友金属の元偉いさんで、神戸の方で最後は定年したんだけど、そっから油絵にはまってね書いては周りに配っているんだけど・・・ あーだこーだあーだこーだあーだこーだ」
長井様 ずーーーと喋る
すごい勢いで・・
15分経過
外は暖かく春の兆し
春はいいよな~~
「今住んでるハイツでこないだトイレの配管が詰まって水漏れしたのよ、それでねオーナーの古谷さんに言ったら、業者手配しますねってそれで夕方に業者の方が来たんだけどその業者さんが言うには、この建物自体が老朽化で水道管が劣化しているみたいですねって、それを古谷さんに伝えに行ったんだけど あっ古谷さんって一階にご夫婦で住んでいるんだけど、で行ったらね奥さんが出てきて ー長井さんがトイレを詰まらせたんだから修理費は全額そっちで払ってください!-ってね そんな話無いわって思い いつも来てもらっているヘルパーさんに相談したら・・あーだこーだあーだこーだ」
15分経過
あ~ ほんといい天気だな
「家のすぐ隣がファミリーマートでまぁ足も悪いので隣なのはありがたいのよ、あっ道路挟んで向かいは消防署なんだけどこないだその前を歩いていたら前から古谷さんの奥さんが来たわけ、それで ーこんにちわー って挨拶したらビックリしたわよ無視するのよ無視、ほんとあんな大人いる?常識がないというかなんというか 旦那さんはいい人なんだけどほんと奥さんにはビックラポンよビックラポン 元々奥さんのお父さんがこの辺の地主で評判悪かったってうちのお母さんも言ってたわ あっ旦那さんは養子なのよ で・・・あーだこーだあーだこーだ」
10分経過
ビックラポン・・
くら寿司行きたいな・・
海老アボカドおいしいよな~
「ヘルパーさんが交代するみたいで今まではしっかりした70代の女性だったんだけど、今度のヘルパーさんは若い男性で頼りないの、このハイツから出たいんで何かいい物件が無いか探してって頼んだら ーそれは長井さん本人で探して下さいーって何なのよね でね・・」
おそらく左前方に見えてきた建物が
目的地のハイツだ
「あっ長井様あのハイツですか?」
「でもホントこの歳で引っ越しなんて一人じゃ無理無理、ヘルパーさんに手伝ってもらうしかないけど あの若い子じゃ頼りないし〇■×□〇・・」
「あの ハイツでしょ~か!」
「え!そうそうアレアレ」
「早かったわねーもう着いたの」
「そっそうですね・・」40分
「7200円になります」
ドアを開けると
長井様がもぞもぞと降りる
片足を外の地面に着き
体半分 車から出た
その時!
「やっぱりあの奥さんおかしいわよね、ほんといい大人が挨拶も出来ないなんてビックラポンやわ 旦那さんはいい人なのに でもね やっぱり人って〇■×□〇・・」
まだしゃべるんかぁ~い
お願いします 降りてくれ
「お忘れ物無いように!」
「引っ越ししたいけど頼りないヘル・・」
「お忘れ物無いように!」
「あっ」
「ありがとうまたよろしくね」
とてもスッキリした様な顔
そこまで老朽化が
進んでいる様には見えないハイツに
消えていく長井様
そりゃ女性の方が長生きする訳です
そして長井様が話していた内容を思い出す
・・・・
ビックラポンしか覚えてない
ウサギと亀
今、お客様をお送りしている先は
市を2つほど超えた中核都市の
山間を切り開いて出来た
大規模なニュータウン
市街地を抜け 山の中腹に向かい
のどかな川沿いの道をひたすら上ると
やがて広大な住宅街が現れる
その住宅街のご自宅に無事到着
このよくある山間部を切り開き
開発したニュータウンって
住み心地はどうなのだろう?
下界から隔絶された住宅地
確かに病院もスーパーも学校もあるが
なんだか怖さを感じるのは私だけだろうか
そんな事を考えながら帰路につく
市街地までは山間から川沿いの道路を進む
かなり田舎感があり とてものどかな道だ
辺りにちらほらある田んぼを見ながら
あ~気持ちがいいな のどかだな~
そんな事を思いながらゆるゆる走る
交通量は少ないが一車線である
しばらくゆるゆる走っていると
ふと気づいた
ゆるゆるが過ぎないか・・
前を走る車が かなり遅い
渋滞かな?いや その車の前はガラガラ
確かにその道路は時速40キロ制限だが
それにしても・・
どんな人が運転しているのだろう
カーブの時にチラリと見える運転者は
お爺ちゃん
(いつも高齢の方の話でスミマセン)
なぜかずっとキョロキョロしている
一本道なのに・・
それにしても
遅い・・
気が付けば
私の後ろにはズラリと渋滞
バックミラーから見える後ろの運転手の顔は
明らかに 怒っている
私じゃないぞ!私じゃ!
届かない言い訳をしつつ
車は進むよどこまでも・・
耐えろ!耐えるのだ俺!
車内で悶絶する私をあざ笑うかの様に
前カゴの袋からネギが飛び出した
主婦の運転するママチャリが
悠然と隣を追い越していく
の ろ の ろ
キ ョ ロ キ ョ ロ
の ろ の ろ
・・・・・・
落ち着け!
のんびり行こうじゃないか
の ん び り・・
アぁぁーーー
無理だ!
の ろ の ろ
キ ョ ロ キ ョ ロ
の ろ の ろ
お そ す ぎ る
早くどこかで曲がってくれ!
わかったぞ!
すぐ先にホームセンターがある
婆さんに言われたんだろ
「破れた網戸の補修シート買ってきて」と
ほらっ そこだぞ!
さぁ入れ ほら ほら ほら
ほらって
はいらんのかぁ~い
ははぁ~んあれだな!
もう少し先に有名な和菓子屋がある
婆さんに言われたんだろ
「粒あんの薄皮大福を買って来て」と
ほら見えてきた
婆さん待ってるぞ
ほらっ ほらっ
ほらーーて
かわんのかぁ~い
ダメだ・・・
イライラがピークになる寸前
ふとキョロキョロ自動車の車種を見た
まさか・・・
その車は・・
「スズキ」
の
「ラパン」
ラパン・・フランス語で「ウサギ」・・
ふざけんじゃねー!
なにが ウサギだぁ!
お前なんてウサギじゃねーよ!
亀だ
亀
そう叫びかけふと冷静になる
まてよ・・落ち着け
ウサギと亀の話ってたしか
なんだかんだで
結局 亀が勝つんだっけ
そうだよな・・
そう・・
大きく一つ深呼吸をして
私はこう呟いた
「安全運転で行きますかね」
そんなある日の田舎道。
お付き合い有難うございました
~ししまいmk~
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