恥ずかし

タクシードライバーの中には
おしゃべり好きの方が結構いるのです
特に大阪のドライバーは
その割合が多い様に感じます
それに引き換え
私はほとんど喋りません
お客がおしゃべり好きな方だと
気分を害さない程度には
受け答えするのですが
こちらからはほとんど喋りかけません
元々の性格もありますが
私があまり喋らない理由
それは
お客のお話の
6割が天気の話
3割が病気の話
残り1割がその他の話
正直にいうと
飽きました・・・
スミマセン
そんな私がこの間のお仕事中
30代ぐらいの一人の女性を
お乗せした時の話
その女性はとある駅からのご乗車
行先は大阪の大都市「梅田」
乗車10分程経過した時
後ろから
「大阪の梅田まで30分くらいかな?」
と女性
「そんなもんですかね~」
と私
「夜は雨ふるらしいわよ」
「あぁ 天気予報で言ってましたね」
「やばっ 傘忘れたわ」
「そうなんですか~」
そんな会話をしばらくした後
「焼肉がいいわ!肉!」
「いいですね~肉」
「じゃ梅田の〇〇にしようかな」
「あっ ○○の近くまで行きますか?」
「じゃ阪急百貨店前で待ち合わせで」
・・・・・
なんかおかしい
んっ!
「いや~久しぶり楽しみだね」
ま さ か・・
「その後カラオケでも行かない?」
もしかして・・
「彼氏は出張だから大丈夫よ」
信号待ちにて私
ゆ っ く り 振り返る
でた~!
やってしまった~
案の定私が見たもの
それは
スマートフォンを耳に当てた女性
その女性と
ゆ っ く り と目が合う
・・・・・・
気まずそうな女性の顔
顔から火が出そうな私の顔
無言の時間・・
てかさ~
言ってよ~!!
真冬の怪談

季節は真冬
その年の冬は特に冷えるらしいと
天気予報士が言ってました
そんな冷え込むある冬の話
そのご婦人をお乗せしたのは
とあるイオンモールのバス停
上品なカーデガンと緑のスカート
シックな茶色のコートを羽織り
手には黒の革っぽいカバン
佇まいもかなり上品だ
行先は5キロ程先の自宅
「とても助かりました」
「ありがとうございます」
「いえいえとんでもございません」
軽いやり取りをしながら
しばらく走っていると
薄く流れるラジオの音に紛れ
ふと なにか聞こえた
「何してあそぼ~か」
小さい女の子の様な声
今どきのタクシーは
助手席の後ろに
モニター画面が備えられており
お客の乗車中そのモニターから
各スポンサー企業のコマーシャルが
入れ替わり流れる
初めはそのコマーシャルの音声かな?
くらいで気にはしませんでした
するとまた
「お腹すいたねご飯なに?」
先ほどと同じ声がする
ラジオかな・・?
そんな事を考えた時また
「ドレスは何色がいいかしら」
すると後ろのご婦人が
「しー 静かにしなさい」
と小さな声で囁いた
「舞踏会は王子様と踊りたいな」
とまた女の子の声
「もぅ わかりましたから」
とご婦人の囁き
な ん か 変 だ ぞ・・
モニターの音声じゃない
バックミラーをチラリと見ても
ご婦人の顔しか見えない
そこで
左後ろの交通を確認するそぶりをして
なにげなく
ごく自然に
後部座席を確認する
わ た し
見てしまった
ご婦人の膝の上に置いたバック
その中からニョキリと
人形が上半身を出している
ブロンドの髪
青い眼
白いドレスを着た西洋人形

なんだなんだ
音や振動に反応して
喋るタイプの人形なのか?
するとまた
「秘密ね秘密」と人形
「秘密にしないと罰を受けるわ」
また人形
変わった言葉のプログラムだな
「ラムステーキが食べたいわ」
とまた人形
「レアがいいわ」
「レアレアレアレアレア」
「レアレアレアレアレア」
壊れたレコードの様に人形が喋る
「大人しくしてなさい」
とご婦人
ぞくりと
背筋に冷たいものが流れる
真冬なのに
それと
プログラムされた音声にしては
なにかおかしい
「天国はお花でいっぱいよ」
ダメだなんかやばい
早く着け・・
早く着け・・
祈る様に車を走らせ
ようやく目的地に到着
動機が激しい
「料金は2300円です」
「はいはい」と
穏やかな笑顔と声
代金を受け取る際に
嫌でも人形に目がいってしまう
ドアを開けるとご婦人は
「ありがとうございました」と
車を降りる
その時
人形の目が
ギョロリと
こっちを向いた様な気がした
まさかな・・・
そんな真冬の恐怖ドライブ
食べる事は生きる事

